満腹と反省のあいだ

おいしい記憶帳

思い返せば、特別な努力をしていたわけではない。
ただ、間食を少し控えようと心がけていた。
わたし、どうにもお菓子を食べるタイミングが多い。
コーヒーを淹れたらチョコをひとつ、仕事の合間にせんべいを一枚、夜のドラマを観ながらポテトチップスを数枚。
そうして「少しだけ」と言いながら一日を終えると、きちんと一食分ほどのカロリーを摂っていることに気づく。

それが悪いわけではないけれど、ふと鏡を見たとき、なんとなく顔がむくんで見える朝が増えてきた。
そんな自覚もあって、この半年ほどは“ちょっと控える”ことを意識して暮らしていた。
お菓子を買い置きしない。どうしても食べたいときは、外で一つだけ買う。
そのくらいのルールが、ちょうどよかった。

もうひとつ、この成果に心当たりがある。
寝る前の5分だけ続けている、骨盤調整のストレッチだ。
SNSで見つけた動画を真似して始めたが、最初は続くはずがないと思っていた。
けれど、毎晩床に寝転び、足をゆっくり伸ばして呼吸を整える時間が、思いのほか心地よかった。
そのうちに、歯磨きをするのと同じように体が覚えてくれた。
一日の終わりに自分を整える時間を持つのは、なかなか悪くない。

食べることが好きだから、食事制限という言葉にはどうしても抵抗がある。
食べる楽しみを奪われたら、暮らしが少し色あせてしまう気がする。
だから私は、無理をしない範囲で工夫をしている。
茶碗によそうご飯を少し減らしてみたり、青汁を飲んでみたり。
正直、青汁がどんな効果をもたらしているのかよくわからないけれど、
「体によさそうなことをしている自分」という満足感がある。
それもまた、心の栄養のひとつだと思う。

さて、そんな健康診断の帰り道。
採血や検査で少し疲れた体が、求めていたものがある。
それは――カロリー高めの食事。
頑張った自分へのご褒美、という名の欲望だ。
しかも、体重が減った喜びに気分は上々。
「今日は特別」という甘い言葉を自分にささやきながら、前から気になっていたつけ麺屋に入った。

初めての店は、少し冒険のようで楽しい。
つけ麺と唐揚げを注文すると、想像以上にボリュームのある皿が運ばれてきた。
湯気の向こうに立ちのぼる香ばしい匂い。
箸をつけた瞬間、濃厚なスープの味が口いっぱいに広がって、思わず「おいしい」と声が出た。
こういう瞬間、たまらない。

しかし、半分を過ぎたあたりで、ようやく気づく。
「あれ、これ、けっこう多い…」
そう思いながらも、箸を止められない。
“満腹中枢よ、今日は静かにしていて”と願いながら、最後の一口まで完食してしまった。

その夜は、当然のようにお腹が重く、翌朝は少し反省。
「やっぱり食べすぎた」と呆れつつ、青汁を一気に飲む。
でも、不思議と後悔はしていなかった。
それに、また今夜からストレッチをすればいいのだ。
そう思えば、失敗も小さなリセットのきっかけになる。

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